2022年12月26日月曜日

光のこと

ソニー窓 年間120万
AC灯体 かっこいい
ディムパックかわいい

 強電パッチは、100Vの電圧がかかっている電線(延長コード)を直接いじるわけですから、感電の危険もありますし、すべてコンピュータ上で済ませられるソフトパッチに比べるとかなり手間のかかる作業です。

でも、ソフトパッチには無い、強電パッチならではの利点もあります。

それは、「ディマーの数が足りなくても何とかなる」ところです。

昔はディマーがとても高価だったので、「ディマー(調光回路)は20回路しかないけど、コンセントは50ヶ所に作っちゃった!」ということはよくありました。このような時、強電パッチ盤があれば、50ヶ所に伸びているコンセントのうち、使う灯体が差さっているコンセントだけを選び取って、ディマーに接続することができます。これなら、ディマーが20回路しかなくても、何とかなりそうです。

また、

  • あるシーン (A) でしか使わない灯体 (a)
  • 別のシーン (B) でしか使わない灯体 (b)

がある場合、本番中に強電パッチを入れ替えて、1回路のディマーで (a) (b) 両方の灯体を調光することもできます。このように、強電パッチは、少ない調光回路を無駄なく使うための知恵でもあったのです。「フェーダーを並べ替える」という役割はソフトパッチに完全に取って代わられましたが、こちらの「少ないディマーを有効利用する」という意外なメリットはソフトパッチでは代替できません。なので、調光卓が最新のものに変わっても、強電パッチ盤を残し続けている劇場は多く存在します。

1.ホールのシステムが今でも強電パッチ時代のもの
小劇場以外の公共ホールなどでは、むしろ今となっては貴重なのでは。
2.ディムパック
そりゃそうだ。大人しく強電パッチして、切り替え盤を持っていきましょう。
ディムパックをDMX化する方法は一応あるんですけどね…
3.DMX卓だけど、ソフトパッチできない
出たよ安物卓!なんて言わずに…
数万円台までの比較的安価な調光卓であれば珍しくもないことです。大人しく強電パッチしましょう。
ちなみによく誤解されていますが、ELATIONのSCENE SETTER(シーンセッター)SCENE SETTER-48(シーンセッター48)512chフルにパッチできます。(ELATION以外のメーカーのSCENE SETTERでは出来ないみたいです)
4.小屋の最大電力が厳しく、単相三線の相バランスを考える必要がある

おそらく最も「正当な理由のある」強電パッチの例。小劇場にありがち。
5.調光ユニットの回路数よりも、常設コンセント・仮設マルチの本数が多い
これも割とやむを得ないパターン。ユニット回路数より多い♂プラグの中から灯体が繋がっているものを選び取る作業が必要なので、強電パッチ設備を作らざるを得ない。
小劇場で強電パッチ設備のあるところ(京都では、無いところの方が少ない?)はほとんどこのパターンなのでは?
昔、ロウソクの炎で舞台を照らしていた時代、天井に吊るしてあるロウソクを人間が吹き消しに行くのは大変なので、ロウソクを覆う金属のフタにヒモを付けて、遠くからロウソクを消せるようにしていました。
やがてガス灯が使われるようになると、ガスの元栓を何十個も1ヶ所にまとめて、舞台のいろいろな場所の明るさを1ヶ所の照明室で調整できるようになりました。
 
電気を使って照明をするようになっても、やはり人間は同じことを考えました。初めのうちは、可変抵抗器(電極の位置によって、抵抗の大きさが変わる)にワイヤーと滑車を付けて、電極を遠くから上下させていました。しかもその抵抗器は、初めは塩水だったというから驚きです。
日本ではその後、抵抗器ではなく可変変圧器(電極の位置によって、電圧が変わる。英名オートトランス)を使った方法に変わりましたが、「ワイヤーと滑車で電極を引っ張る」という仕組みは変わらず、1960年代の初めまでこの方式が主流でした。
IMG_0037←このようにワイヤーと滑車を使って、電極を上げ下げする
 
旧式調光器。③の部分(フェーダー)を操作すると、ワイヤーで抵抗器②の電極が引っ張られて上下し、電圧(=明るさ)が変わる。
某所に現存する、旧式の調光操作盤。上の③の部分に相当。
 
 
このように、人間はずっと、
「どうにかして、両手が届く範囲で全部操作したい!」
「遠くの灯体も近くの灯体も、全部この位置から操作したい!」
 
と願い続けてきました。
 
つまり、
 
操作をする部分」と、「実際に明るさを変える部分」は別々の方が便利だよね、と考え続けてきたのです。

調光ユニットを分解すると

ディマー」という単位を理解するために、調光ユニット「DP-DMX20L」を見てみましょう。


見ての通り、コンセントは8口(くち)ありますよね。
しかし、これはあくまで「コンセントの口数」であって、「ディマー」という単位とは関係ありません。

 

この調光ユニットのディマー数は、「4ディマー」です。
8個コンセントがあるのに4?どういうことなのでしょうか?

 

ここで、この調光ユニットの蓋を開けて、中の部品を見てみましょう


 

矢印をつけた小さな電子部品が4つ見えます。

こいつが、なんと調光をしている張本人なのです。こんな小さな電子部品が電気をいじくって、明るさが変わっているのです。

この部品を、トライアックと言います。


 

このトライアックが無いと調光はできませんから、トライアックの個数=「ディマーの数」と言えます。

 

この調光ユニットにトライアックは4個入っています。よって、「ディマーの数=4ディマー」と言えるわけです。

 

 

1つのトライアックから2口のコンセントに並列につながっているので、合計8口のコンセントが出ているわけです。
コンセントの数は8だが、ディマーの数は4」だと言う理由がお分かりいただけたでしょうか。

 

 

ついでに、このトライアックという部品が、「つないでよい灯体のワット数」をも決めています。
トライアックは最大電流値が決められており、どんなに太い電線を使っても、トライアックの性能を超える電流を流してしまうと、トライアックが壊れてしまい調光できなくなります。

 

「この劇場は1ディマー20A(≒2kW)までだからね!」と言われたら、1つ1つの回路のトライアックがそれ以上耐えられない、ということです。
(実際はトライアックの限界より少し低い容量のブレーカーやヒューズなどが挟まっていて、トライアックが壊れる前に落ちるようになっています。)

ちなみに、ここで出てきた調光ユニット「DP-DMX20L」は、1ディマーにつき5A(≒500W)までです。
復習ですが、コンセントが8口あるからと言って、「コンセント1口につき5A」ではありません。理由はもうお分かりですね。

ディマー、という言葉

トライアック自体を指して「ディマー」と呼んでも間違いではないですが、トライアックは調光以外にも使われるただの電子部品です。

「ディマー」という言葉自体の定義はもう少し広く、
1つ1つの調光回路の心臓部分となる、「トライアックと、その周辺の制御回路 (回路基板や電子部品)」を総合して、「ディマー」と呼びます。

復習ですが、英語の dim (~を薄暗くする、調光する)に 窶?er (~する者)を付けて、 dimmer です。
「ここが調光の心臓部分だぞ!」という意識がよく現れた言葉です。

 

ディマーユニット」と言うと、「調光ユニット」と同じ意味になります。「調光ユニット=ディマーユニット」は、「ディマー」がたくさん集まって1台の機器になったもの、と言えばイメージしやすいでしょうか。


▲トライアック、ディマー、調光ユニットの関係イメージ図。

 

また、「ディマー番号」という言葉もあり、こちらは数える単位の「1ディマー、2ディマー」よりもかなり一般的な用語です。
仕込み図やパッチ表では 「dim. No.」 などと表記されます。

DMX信号対応の調光ユニットの場合、普通1ディマーにつき1つのDMXアドレスを割り当てるので、多くの場合「ディマー番号」と「DMXアドレス」は同じ番号となるか、少なくとも1対1で対応します。

ディマー番号は「何ではない」か

最後に、ディマーを取り巻くややこしい概念について整理するために、ディマーは何「ではない」か、を述べます。
少し発展的な内容です。
この辺りはパッチ強電パッチの記事を併せてご覧いただくと、より理解が深まるかと思います。

 

 

  • ディマー番号は「回路番号」ではない
    この記事の改稿前、「1ディマー、2ディマー」の代わりに「1回路、2回路」という単位を使っていましたが、これも紛らわしいので撤回のうえ、注釈します。
    「ディマー」と「回路」は明確に異なる概念です。

    そもそも電気施工の文脈における「回路」は、下の図の赤点線のところを指します。

    この図は一般家庭の電気配線の図です。分岐ブレーカーから壁・天井内配線を通って電灯に至る、ここまでが「1回路」です。
    コンセントの場合は、何も差さっていないと厳密には「回路」が成立しませんが、便宜的にコンセントまでの部分を「1回路」とします。

    では、劇場の場合はどうかと言うと、やはり分岐ブレーカーから壁・天井内配線を通ってサスバトン等のコンセントに至る、ここまでが「1回路」です。

    この図だけを見ると、ディマーと回路を区別する必要が無いように思えますが、それは「たまたま施工上、ディマーと回路が同じ数で、1対1に固定されているから」です。
    たまたま、と言っても、日本の公共ホールのほとんどがこの施工方法なので、ホールの現場レベルでは「回路番号(=コンセント番号)」と「ディマー番号」を混同して呼んでも支障ありません。

    しかし…、「ディマー」と「回路」の対応を変更できる場合があります。それは「強電パッチ」という作業を行う場合です。

    このような仕組みになっている劇場では、必ずしも「ディマーNo.1」が「コンセントNo.1」に対応するとは限らない (任意に変更できる) ため、ディマーと回路は明確に区別する必要があります。

    強電パッチ盤のあるホールは古いホールが多いですが、ホール以外の仮設現場でもこれに類似した作業を行う必要があるため、やはりディマーと回路は明確に区別する必要があると言えます。

  • ディマーは「チャンネル」ではない?
    「チャンネル」もあいまいな用語と化しています。
    実際、通販サイトの説明では、この記事で使った「4ディマーの調光ユニット」に相当する意味で「4チャンネルユニット」という表現がなされます。


    他に良い表現が無いのでこれはこれで間違いではないです。最初に述べましたが、現場レベルでも、「24ディマーの調光ユニット」とは言わずに「24チャンユニット」と言ったりします。

    しかし、厄介なのは、調光卓の操作単位としても「チャンネル」という用語が使われることです。

    いわゆるパッチ表 (英語圏ではChannel Hookupと呼ぶようです) で「Ch No.」と「Dim No.」が出てくる場合、
    ここでの「Ch (チャンネル)」は「調光卓のフェーダー番号」の意味になります。ノンフェーダー卓・ムービング卓の場合は、個別フェーダーに相当する最小操作単位の番号となります。

    こちらも、調光卓にパッチ機能が無い場合は、「チャンネル番号」と「ディマー番号」が同じになってしまうので、特に簡易なパッチ無し卓を使っている初心者が混乱に陥りやすいところです。
    概念上、区別するものだということを知っておかないと、苦労するかもしれません。

 

以上、長くなりましたが、「ディマー」をめぐる概念の話でした。

これで調光卓・調光ユニット周りは説明しきった……かな?

 

 

 



0 件のコメント:

コメントを投稿